難聴と病気

難聴によってリスクの高まる様々な病気に関して解説します。

 

難聴と認知症

難聴と認知症との関係が注目されています。
難聴が認知症やアルツハイマーの発症と関係があることを示唆する複数の研究があります。難聴をそのまま放置しておくと、深刻なリスクとなる恐れがありますが、このことは、聴覚が低下している人たちに十分周知されているわけではありません。
この情報を提供することで、患者やその大切な人の聞こえのケアについて意識を変えさせるきっかけとなることでしょう。

難聴の早期診断と治療は、認知症やアルツハイマーの進行を遅らせます。
難聴が認知症やアルツハイマーの進行の要因であるというエビデンスが増えていることから、難聴を放置することによる深刻な影響について、医師は患者に適確な情報を伝える義務があります。難聴は早期に発見し早く治療や聴覚補償を開始するほど、聞き取りが維持されやすいという事実があるにもかかわらず、難聴を抱える人々が診断されてから治療を求めるまでには平均で7年かかっています。早期診断と医療的介入により、認知症やアルツハイマーの進行を遅らせることができることを考えると、医師が患者に対し、できるだけ早く難聴の治療や聴覚補償の方針を促すことがさらに重要となってきます。 補聴器による聴覚補償は、患者の聞こえを改善するだけでなく、脳の萎縮や認知機能障害の予防につながる可能性があります。

 

難聴と糖尿病

糖尿病が感音難聴につながる可能性があるというエビデンスがあります。
糖尿病患者の検死研究では、糖尿病に関連する病変により内耳の神経や血管が損なわれることで、糖尿病が感音難聴の原因となり得るというエビデンスが示されています。
これには次の項目が含まれます。
・内耳動脈硬化
・血管条の毛細管肥厚
・らせん神経節の萎縮
・第8神経(内耳神経)の脱髄
損傷は2型糖尿病患者においてより一般的であると見受けられます。

難聴は糖尿病患者に多い。
医師が患者に聞こえに関する日常の問題について尋ねるのには様々な理由があります。研究者は、糖尿病患者に難聴が多いことを突き止めています。患者の両耳の低域周波数、中域周波数、高域周波数の聴力検査結果から、糖尿病と周波数ごとの難聴との因果関係が示唆される結果となりました。中でも、低域周波数の関係性が幾分強く出ています。低域周波数または中域周波数の中等度から重度の難聴は、糖尿病でない成人4,741人中は約9%だったのに対し、成人の糖尿病患者399人中では約21%でした。高域周波数の中等度以上の難聴は、糖尿病でない成人で32%だったのに対し、成人の糖尿病患者では54%でした(抑うつ、孤立感、不安、怒り、自己イメージの低下などの心理的影響もあります)。

医師が、患者に対し、難聴と糖尿病の明確な関連性を伝えることが推奨されます。
まだ糖尿病と診断されていない患者であっても、難聴を識別するだけでなく、難聴が糖尿病やその他の心血管系疾患の発症の兆候という点からも、聴力検査を受けることが重要であると伝えるようにしましょう。 患者に難聴が疑われたり、難聴があることが分かっている場合は、全体的な健康のためにも、かかりつけ医に報告するよう促します。
すでに糖尿病と診断されている患者の場合は、合併症として難聴が考えられることを伝え、毎年聴力検査を受けるよう促します。難聴を早期に診断できれば、補聴器などよる効果的な聴覚ケアも期待されます。

 

難聴と脳心血管障害

心臓と聞こえの関係。

心血管系の健康が損なわれると、血流が不十分となり、内耳に血管障害が起こります。内耳は血流に非常に敏感であるため、難聴、特に低音障害型難聴は、心血管系疾患の早期の警告サインである場合があります。
2つのパートからなるフラミンガムスタディ (※注) では、低音障害型難聴が心血管系疾患と関連しているという仮説が立てられました。聴こえに障害のある患者1,168人の心血管の状態について検査しました。

※注 フラミンガムスタディ:
1948年より米国のボストン郊外のフラミンガム地域で、約5,000人を対象に始まった虚血性心疾患の追跡疫学調査でコレステロール、高血圧、喫煙のほか、肥満、糖尿病の関与を明らかにしました。現在も調査継続中。

聴力パターンと心血管の変数との関係を観察し、年齢と性別によって解析しました。ロジスティック回帰モデルを使用して聴力パターンから心血管リスク要因を統計処理しました。心臓病および老人病のクリニックから集めた、聴力検査の結果がある被験者90人の単独グループにもこのモデルを適用しました。
結果は、低音障害型難聴と心血管系疾患のリスク要因との間にかなり強い関連性があることを示唆するものでした。年齢、高血圧、糖尿病、喫煙、脂質異常症などと対比すると、低音障害型難聴は、以下の心臓および脳血管系疾患に相当の関連性があるということが分かりました。
・頭蓋内血管病変(脳卒中や一過性脳虚血発作)
・末梢血管疾患
・冠動脈疾患
・心筋梗塞

 

難聴と転倒リスクの増加

高齢者の転倒や怪我の原因の多くが予防可能です。
医師は常に、高齢者の患者に対し、運動すること、視力検査を受けること、医薬品による目まいが起こらないか観察することを助言しています。これらに加え、よく知られている転倒の原因が、放置されている難聴です。難聴は、複数の研究において転倒リスクの大幅な増加と関連づけられています。この情報を65歳以上の患者と広く共有し、健康と命を守るための全体的な戦略の一部として、難聴の治療を受けることを勧めていく必要があります。

 

難聴による転倒が怪我や入院につながります。

転倒は、65歳以上の米国人において、多くの怪我や死亡の原因となっています。高齢者は、転倒後、脳損傷、腰部およびその他の部位の骨折を経験するのが一般的です。人的コストに加え、これらの深刻な症状により入院期間が延び、外科的介入や関連治療が増えるため、何十億ドルという医療費が生じることになります。

最も意義深い研究の1つでは、2001-2004年の全国健康栄養検査調査(National Health and Nutrition Examination Survey)のデータを活用し、治療されていない難聴と転倒との関連性を判定しました。この調査は、1971年以降、何千人という米国人の健康データを定期的に収集してきました。40歳から69歳までの調査参加者2,000人以上に聴力検査を受けてもらい、「昨年転倒しましたか?」という質問に答えてもらいました。研究者は、参加者の平衡感覚が難聴によって影響を受けているかどうかを判断するために、前庭機能の検査も行いました。
主任研究者の報告によると、軽度の難聴(25dB)を抱える人は、転倒のリスクが3倍近くありました。難聴が10dB進行すれば、転倒の確率は1.4倍増加しました。その他の要因(年齢、性別、人種、心血管系疾患および前庭機能)を考慮した後でも、その所見は当てはまりました。
これを含め、難聴の幅広い影響に関する複数の研究を実施した耳鼻科医であり疫学者であるフランク.R.リン医師は、転倒との関連性について次のような理由が考えられるとしています。
・聞こえにくい人は、自分の全体的な環境を上手く認識できないため、つまずいたり転倒したりする可能性が高まる。
・難聴を抱える人の場合、認知負荷が高くなる。平衡や足取りを維持するため脳が支配され、聞き取り、音情報を処理するために緊張を強いられている。
蝸牛の障害に、平衡感覚を損なう前庭機能障害が含まれる場合がある。

 

難聴とがん治療

医師は、抗がん剤や放射線治療の多くの副作用について熟知しています。しかし、がん治療の後、多くの患者が報告するような難聴やそれに関連する症状(耳鳴りなど)のリスクを取り上げた研究が行われるようになったのは、近年になってからのことです。これらの研究では、難聴と、特に一部の抗がん剤によるがん治療との間に強い関連性があることが明らかになりました。
医師と患者の両方が、がん治療時の聴覚的毒性と、それの長期間にわたる影響を理解しておくことが重要です。この長期間にわたる影響には、回復が難しい難聴が含まれる場合もあります。

聴覚毒性とそのがん治療との関係性
一部の抗がん剤や放射線治療により聴覚的な毒性が発生する場合があります。これは、治療の種類や聴覚の損傷度合いにより、一時的なものもあれば恒久的に続くものもあります。 感音難聴(SNHL)につながる聴覚的毒性とは、音波に反応して蝸牛有毛細胞が振動する内耳に対する薬剤または化学物質による損傷を指します。この損傷は、脳に対する重要な聴覚および平衡感覚の情報に影響し、難聴、耳鳴りや、平衡感覚への障害を来す場合があります。
プラチナベースの抗がん剤、特にシスプラチンとカルボプラチンは、聴覚的毒性の主な「容疑者」であると考えられています。その他に聴覚的毒性があると考えられる薬剤としては、ブレオマイシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ブロモクリプチン、メトトレキサート、ナイトロジェンマスタードが挙げられます(※1)。
※1 American Tinnitus Association. Ototoxic Brochure by League for Hard of Hearing. 2012.